おいらく取材ノート「66歳で認知症 母を見送って 7-3」
母が66歳で認知症と診断
後に圧迫骨折から脳梗塞を発症し、寝たきりとなった母
コロナ禍で会うことさえ制限される中、母の命の灯は静かに消えていきました
その最期の時間に、娘が感じたのは“別れの悲しみ”ではなく、“母への赦し”でした
投稿して頂いた内容は、ご本人の許可を得て複数回に分けてご紹介します
【第3回】
最期の時間 ― 母との別れ、そして赦し
母が圧迫骨折をして入院したのは、冬の寒い日でした
父は親戚の葬儀で外出しており、母は家でひとり留守番をしていました
病院からの電話で「転倒されました」と知らされたとき、私は胸の奥が凍るような感覚に包まれました
入院先でのリハビリは長引き、母はそこで脳梗塞を起こしました
その日を境に、認知症の症状は一気に進行
退院しても歩くことができず、次第に言葉の数も減り、やがて車椅子の生活になりました
母は骨折の入院をきっかけに、K病院系列の施設を3か所転々とします
介護スタッフの皆さんは本当によくしてくださり、どの施設でも母に優しく声をかけてくれました
「元気な人と同じ治療をしていますよ」と励ましてくださった看護師長の言葉が、今でも心に残っています
しかし、その後訪れたコロナ禍で、面会は一切禁止になりました
「またね」と言ったまま、次に会える日がいつになるのかもわからない
やっと面会が再開されたころ、母はすでに私の声に反応しなくなっていました
手を握っても、まぶたがわずかに動くだけ
それでも私は、「お母さん、来たよ」と声をかけ続けました
母はその後、病院の経営悪化もあり、療養型病院へ転院します
そこには、長期入院の高齢患者が何十人も入院していました
大勢の人が同じ薬、同じ食事を与えられている――そんな光景に、私は複雑な思いを抱きます
しかし、その病院から見える風景を眺めたとき、私はある“偶然のような必然”に気づいたのです
その療養型病院は、母が現役時代に校長として働いていた中学校の校区のすぐそばにありました
窓の外に広がるその景色を見た瞬間、私は胸の奥で何かがほどけていくのを感じたのです
子どもの頃から、私は教員だった母に対して複雑な思いを抱いてきました
厳しく、いつも正しさを求め、子どもにまで教師のように接してくる母
“もっと優しくしてほしかった”“普通のお母さんでいてほしかった”――そんな気持ちを長い間抱えていたのかもしれない
けれど、母が最後に辿り着いた場所が、彼女が最も輝いていた時代の校区だった
それを知った瞬間、私はようやく「母は母なりに懸命に生きていた」と心から思えたのです
母を赦すというよりも、母の生き方を“受け入れる”ことができた――そんな感覚でした
母は転院から4か月後、静かに息を引き取りました
最期の3か月間は点滴だけの栄養で過ごしていたそうです
胃ろうをしても吐き出してしまい、もはや治療というより「見守る時間」でした
しかし看取りのときの丁寧さだけは今でも鮮明に覚えています
看護師さんが丁寧に母の髪を整えて下さり、「穏やかに逝かれましたよ」と声をかけて下さった 私はその言葉に救われました
悲しいというよりも、「お母さん、もう頑張らなくていいよ」と心の中でつぶやいた瞬間、
長い間胸にあったしこりが、ふっと溶けていくのを感じました
母を通して私が学んだことは、“赦し”とは忘れることではなく、理解することだということ
そして、誰かを理解したとき、人はようやく自分自身も赦せるようになる――そう気づかされました
母の死を受け入れるまでには時間がかかりました
でも、あの日の病院の窓から見た景色は、私に「これでいいのだ」と静かに教えてくれた気がします
母の人生と私の人生が、ようやくやさしく結び直された瞬間でした
母の最期を見送った今、私はようやく言葉にできます
――お母さん
チューリップの球根を一緒に植えたり、紅葉狩りしたよね・・本当に楽しかった
沢山の思い出をありがとう
おいらく取材ノート「認知症の母を見送って」7-4へ続く
親との関係には、誰しも少なからずわだかまりがあります
それでも、人は「別れ」を通して“赦す力”を育てていくのだと思います
“赦すこと”は、終わりではなく、新しい始まり
親を看取るという経験は、過去の痛みを癒し、自分のこれからの生き方を見つめ直す時間でもあると思いました
★おいらく取材ノートについて
老後を前向きに生きるためのヒントは、皆さんのこれまで生きてきたそれぞれの人生経験の中にあると思っています 人生経験豊富な年代の方から若い世代まで、それぞれの考え方や経験を聞くことはとても貴重であり、これからどう生きるべきかを学ぶ参考書になり得ると思っています
「体験者にきく」は、年齢問わずご自身の経験や将来の「おいらく(老いを楽しむ)」について語って頂いた内容をご紹介「専門家にきく」では、様々な現場で活躍されているプロの方にfandeenaが取材した内容をご紹介しています
同じ悩みを抱えている方、世代によって様々な考えや意見もあるでしょう 読者の皆様にとってこれからの人生についての参考になれば幸いです 読者の皆様、そして専門家の皆様、取材に快く協力して頂き感謝します この場をかりて厚くお礼を申し上げます
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