おいらく取材ノート「66歳で認知症 母を見送って 7-4」
母を見送ったあとに残されたのは、静かな実家と書斎に囲まれた父だった
悲しみよりも先に訪れたのは、介護の終わりではなく、“次の現実”でした
娘として父とどう向き合い、自分の人生をどう生き直していくか
母から受け取った教えと共に、新しい一歩を踏み出します
この連載は、50代の娘・Saiさんが、66歳で認知症を患った母との暮らしを振り返りながら、「家族の絆」「介護」「看取り」「そして自分のこれから」を穏やかな筆致で綴った実体験エッセイです
投稿して頂いた内容は、ご本人の許可を得て複数回に分けてご紹介します
【第4回】
残された家族として ― 父との関係と自分のこれから
母を見送ってからの一年、私の心は不思議なほど静かでした
悲しみや涙というより、長い介護の緊張がほどけて、空白の時間が流れていくような感覚でした
けれど、その空白を埋めるように、次に向き合うべき存在がありました――父です
母が生きていた頃、父はどちらかといえば“家の外”の人でした
趣味や地域活動には熱心でも、家庭のことは母に任せきり
母が病気になってからも、「自分のペースを崩したくない」という気持ちが強く、介護の現場に本気で向き合うまでに時間がかかりました
母が亡くなってからは、その“マイペース”さがさらに顕著になりました
49日、百か日、年越しと法要が続く中で、父は動かず、周囲に任せきり
私は疲れ果て、怒りと悲しみが入り混じった複雑な感情を抱きました
「どうして私ばかりが動かなくてはいけないの?」
そんな思いが募り、しばらくの間、父と距離を置くようになりました
けれど、時間が経つうちに気づきました
母が父を叱っていた理由も、私が父に苛立つ理由も、結局は“似ている”からなのだと
母も私も、まじめで、自分の理想を人に求めすぎていたのかもしれません
だからこそ、父の“マイペース”が許せなかった
でも今は、その頑固さが父の生きる力の源なのだと感じます
今の父は、一人暮らしをしながら、畑仕事をし、料理や掃除も自分でこなしています
病気もなく、定期健診も欠かさず受け、地域の仲間たちと楽しそうに過ごしています
私が思っていたよりも、ずっとしっかりしている
“支えなければ”と思っていたのに、気づけば父の方が自分らしく生きていました
弟は同じ市内に住み、父の様子を時々見に行ってくれます
遠方にいる妹も里帰りした際は、父との時間を大切にしています
私自身の現在は、無理のないペースで帰省し、掃除や料理、衣類の整理をしながら父との距離を保っています
母を見送ってからの私は、「これからの自分の生き方」について何度も考えました
母が教えてくれたのは、“怒らないこと” “人にゆだねること”
かつての私は、母と同じように「こうあるべき」と自分を縛り、人にもそれを求めていました
けれど、母の生き方と最期を見て、ようやく気づいたのです
完璧に生きなくてもいい、弱さを認めて生きていい、と・・・
しばらく描けなかった絵も、少しずつ再開
以前は「上手に描かなければ」と思っていましたが、今は違います
“心で感じたままに描く”――それが母からもらった生き方のヒントです
キャンバスに向かうと、いつも母の声が聞こえる気がします
「自分を責めないで あなたはあなたのままでいいのよ」と
母が66歳で認知症と診断されたこともあって、私は自分の脳のことも気になり「脳ドック」を受けましたどこかに「私も母のようになるのでは」・・・と不安があったからです
「動脈硬化はあるが、アルツハイマーではない」との結果でした
その時 医師から「将来なるかもしれない病気を恐れるより、今をどう生きるかを考えなさい」と言われたこが心に残りました
母のように若くして認知症になっても、そこに“人生の意味”は必ずある
そう信じられるようになったのは、母が私に生きる覚悟を教えてくれたからです
母を見送った今、私は思います
「生きることは、誰かをゆるし、そしてゆだねていくこと」
これからの人生、怒らず、焦らず、感謝を胸に、母が見守る空の下で、静かに、誠実に生きていこうと思っています
おいらく取材ノート「認知症の母を見送って」7-5(最終章)へ続く
家族を見送ることは、区切りではあっても決して“終わり”ではなく、始まりなんですね
親の最期を通して、自分の生き方が見えてくる
Saiさんの記事を通して大切な人を亡くして初めて、亡くなった人の生き方や考えが理解できるようになっていくことを教えられました
親を支える時間、介護の時間、別れの時間、残された家族の時間
その人が生きた時間を通して、自分自身がどう生きていくかが見えてくる
貴重な時間なのだと思いました
次回 おいらく取材ノート「認知症の母を見送って」7-5(最終章)では、ご投稿いただいたSai様からのメッセージを掲載します
おいらく取材ノート「認知症の母を見送って」7-5(最終章)へ続く
★おいらく取材ノートについて
老後を前向きに生きるためのヒントは、皆さんのこれまで生きてきたそれぞれの人生経験の中にあると思っています 人生経験豊富な年代の方から若い世代まで、それぞれの考え方や経験を聞くことはとても貴重であり、これからどう生きるべきかを学ぶ参考書になり得ると思っています
「体験者にきく」は、年齢問わずご自身の経験や将来の「おいらく(老いを楽しむ)」について語って頂いた内容をご紹介「専門家にきく」では、様々な現場で活躍されているプロの方にfandeenaが取材した内容をご紹介しています
同じ悩みを抱えている方、世代によって様々な考えや意見もあるでしょう 読者の皆様にとってこれからの人生についての参考になれば幸いです 読者の皆様、そして専門家の皆様、取材に快く協力して頂き感謝します この場をかりて厚くお礼を申し上げます
尚、取材した内容の最終確認 及び「氏名」「社名」「写真」などの公表に関してまして、全てご本人の了解を得た上で掲載しています

