おいらく取材ノート「66歳で認知症 母を見送って 7-1」
母が66歳で認知症と診断されてから14年
家族の想い、介護の現実、そして別れを通して見えてきた“生きることの意味”その日々は、家族にとって葛藤と気づきの連続でした
この連載は、50代の娘・Saiさんが、認知症を患った母との暮らしを振り返りながら、「家族の絆」「介護」「看取り」「そして自分のこれから」を穏やかな筆致で綴った実体験エッセイです
投稿して頂いた内容は、ご本人の許可を得て複数回に分けてご紹介します
【第1回】
母の異変に気づいた日 ― 66歳で認知症 忙しすぎる毎日の裏で始まっていた、静かな変化
教員として充実した日々を送っていた母に現れた“違和感”
家族が気づき、受け入れるまでの葛藤を描きます
2023年10月、母は79歳でその生涯を閉じました
母が亡くなって月日が経ち、ようやく心の整理がついてきたように思います
母が最初に認知症と診断されたのは、今から14年前、66歳のときでした
当時の母はまだ現役のように活動的で、地域の公民館長や婦人会長、市の委託事業などをこなし、誰よりも忙しく動き回っていました
もともと中学校の教員で、最後は母校の校長を務めて退職
責任感が強く、几帳面で、感情表現のはっきりした人でした
そんな母に異変が現れたのは、退職から数年後
「最近、怒りっぽくなった」「同じことを何度も言う」と父がつぶやくようになりました
私は「年齢のせいかな」と軽く考えていましたが、母自身も疲れや倦怠感を訴え、次第に予定していた外出を控えるようになっていったのです
母は孫をとても可愛がってくれました
しかし体が思うように動かず、夫(私の父)に細かく指示を出したり、時に八つ当たりをしたりすることも増えました
教員として生徒を導いてきた“指導力”が、そのまま家庭にも現れていたように思います
やがて、母のまわりの人たちも異変を感じ始めました
「道に迷っていた」「以前より反応が遅い」と言われることが重なり、家族は不安を募らせました
母の姉も同じ年代で認知症を発症していたことから、私たちは遺伝的な不安も抱えていました
最初の受診は、私の友人の理学療法士に勧められた脳神経外科でした
母自身は「病気だ」とは思っていませんでしたが、私と父が説得し、三人で病院へ行きました
医師との相性が合わず、納得感は薄いままでしたが、結果「認知症」と診断されたのです
父は表情を変えず淡々と受け止めていましたが、母の姉の経験もあり、ある程度覚悟していたのかもしれません
一方の私は、心のどこかで「まだ早すぎる」「何かの間違いでは」と受け入れられずにいました
母は診断された後もできることを続けようとし、家事や地域の活動に関わり続けました
しかし、以前のように手際よくこなすことが難しくなり、生け花も活けられなくなっていきました
「少し休んだら?」と声をかけても、「自分がやらなければ」と頑張りすぎてしまう――それが母らしさでもありました
今振り返れば、あの頃の母はすでに不安と戦っていたのだと思います
“自分がおかしい”とは認めたくない けれど、思うようにいかない自分に苛立つ
その葛藤が、怒りっぽさや孤立につながっていたのでしょう
当時の私は、小さな子どもを育てながら、夫の転勤で実家から3時間離れた場所に暮らしていました
遠くにいても母のことが気がかりで、電話をするたびに胸がざわつきました
当時を振り返って・・あの時の母の変化を「老化」と片づけた自分を、今は少し責めています
もっと早く、もっと真剣に、母の“心の声”に耳を傾けていれば――そんな後悔が今でも残っています
それでも、あのときの私には、病気への知識も、心の余裕もありませんでした
「母が怒っている」「母がわがままになった」と思うたびに、母もまた苦しんでいたのだと、今ならわかります
病気は、本人だけでなく、家族の心も揺さぶります
私たちはみな、初めての経験の中で手探りの日々を過ごしていました
認知症の始まりは、誰にでも起こり得る“ほんの小さな違和感”から始まります
家族がその変化に気づいても、「まさか」と思いたくない気持ちが勝ってしまう
けれど、病気を責めるより、まず“受け入れること”
そして、家族が「知ること」から一歩が始まるのだと思いました
★おいらく取材ノートについて
老後を前向きに生きるためのヒントは、皆さんのこれまで生きてきたそれぞれの人生経験の中にあると思っています 人生経験豊富な年代の方から若い世代まで、それぞれの考え方や経験を聞くことはとても貴重であり、これからどう生きるべきかを学ぶ参考書になり得ると思っています
「体験者にきく」は、年齢問わずご自身の経験や将来の「おいらく(老いを楽しむ)」について語って頂いた内容をご紹介「専門家にきく」では、様々な現場で活躍されているプロの方にfandeenaが取材した内容をご紹介しています
同じ悩みを抱えている方、世代によって様々な考えや意見もあるでしょう 読者の皆様にとってこれからの人生についての参考になれば幸いです 読者の皆様、そして専門家の皆様、取材に快く協力して頂き感謝します この場をかりて厚くお礼を申し上げます
尚、取材した内容の最終確認 及び「氏名」「社名」「写真」などの公表に関してまして、全てご本人の了解を得た上で掲載しています

